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【国井律子の乗り物ダイアリー vol.22】「今日よりも明日が素晴らしい」プノンペンの路肩で想う

ものすごい勢いで進化しているカンボジアです。次々と高層ビルが建設される街並みはもちろん、路上の変化も1年前とは大違い。

バイク ツーリング
プノンペンのシンボル、独立記念塔。旧宗主国であるフランスから1953年に独立し、それを祝って建てられたそう。
  • プノンペンのシンボル、独立記念塔。旧宗主国であるフランスから1953年に独立し、それを祝って建てられたそう。
  • この間、長男の卒園式が世田谷であり、慣れないヒールを履いていたらあっという間に靴擦れ……。ああトゥクトゥク呼びたい。プノンペンだったら3分以内で来てくれるのに!
  • 独立記念塔を横切るシアヌーク大通り。歩行者も、生活を積んでいる屋台リアカーも、広い通りをこなれた感じでひょうひょうと横切ります。
  • この規模の通り、東京だったら間違いなく100メートル感覚で信号があると思います。われ先にと突っこんでいるようにも見える混沌とした交差点ですが、じつに器用なハンドルさばきと「あうんの呼吸」で皆さん淡々と通り過ぎていきます。路肩でその様子を眺めるのもなかなか楽しい。空気は恐ろしく悪いけど(笑)。
  • トラック傾いているし! ひゃー!! こんなクルマを見かけたらスグによける私です……。
  • プノンペンの夕方の往来。学校や幼稚園へお迎えに行くこんな家族が目立ちます。
  • 暑さが引いた夕方のプノンペン。気持ちいい風に吹かれながら、散歩がてら子どもたちの幼稚園へお迎えに。帰りはもちろんトゥクトゥクですが。
  • 旅の最終日の夕方。私はこの原稿を書くために独立記念塔を訪れました。いろんなクルマ、オートバイ、人間模様がかいま見られてここでぼーっとしているのが楽しい。もちろん空気は悪いですけどね(笑)。

ものすごい勢いで進化しているカンボジアです。次々と高層ビルが建設される街並みはもちろん、路上の変化も1年前とは大違い。

たとえばこの1年で、デコレーションがギラギラしたバイクで引っ張るタイプの旧式のトゥクトゥクが激減しました。かわりにコンパクトなインド製にガラリと様変わり。台数も昨年よりうんと増えました。

高級車も以前は猫も杓子もレンジローバーだったのに、メルセデスのゲレンデ、アウディ、ボルボ、BMWもよく見かけるように。あとレクサスも。一歩郊外に出るといまだ未舗装路が多いからか、セダンではなくSUVなどの実用的な四駆が好まれるのかもしれません。

この規模の通り、東京だったら間違いなく100メートル感覚で信号があると思います。われ先にと突っこんでいるようにも見える混沌とした交差点ですが、じつに器用なハンドルさばきと「あうんの呼吸」で皆さん淡々と通り過ぎていきます。路肩でその様子を眺めるのもなかなか楽しい。空気は恐ろしく悪いけど(笑)。
オートバイは相変わらずすさまじい台数。街中二輪だらけです。数年前はほとんどがスクーターでしたが、今年はビッグスクーターや、数はまだまだ少ないですがリッターバイクの姿もちらほら。若者を中心に中型のレーサーレプリカも流行っているのかな。うちの長男が言っていたことなのでうそか本当か定かじゃないですが、「ハーレーを見た! お母ちゃんと同じマフラーの音してた!(スポーツスターに乗っています)」だそうです。

郊外に展開する無垢なワールドダート狙いか、外国人が跨るオフロードバイクも毎日のように見ましたね。

カンボジアの首都プノンペンは日本に比べたら信号の数が本当に少ない。けっこう大きな交差点ですら、ものすごい台数のオートバイやクルマやトゥクトゥクが押し合いへし合い、うまいことかわしながらすれ違っています。

歩行者が道路を渡るのも正直命がけです。一方通行だと思っていたら逆走車もたくさんいます。平和ボケしたわれわれ日本人の感覚は一旦リセットしないと取り返しの付かないことになるでしょう。

「お嬢さんお入りなさい、さぁどうぞ♪」

モジモジしていたら道は一生渡れません(笑)。迫り来るトゥクトゥクを睨みつけながら、しかし後方もキチンと確認して足早で渡るのがコツ。当然のことながらドライバーたちも歩行者にぶつかりたくないので、ものすごい集中力で避けてくれます。まさに「あうん」の呼吸。

プノンペンの夕方の往来。学校や幼稚園へお迎えに行くこんな家族が目立ちます。
たまにですが、道ばたで取り締まっている警官を見ました。一体何を取り締まっているのだろうと私は興味本位で道ばたから眺めました。だって罰則の基準がよくわからないから。4ケツしている家族を? 子どもにヘルメットをかぶせていないから? シートベルトをしていないドライバー? スマホをいじりながら運転しているスクーター!?

多くのヒトが違反じゃないか、と思ってしまうし、こっそり袖の下を渡せば「オマエ行け!」と、あっさり許されそうだし……。

この国のルールってなんだろう。ぼーっと眺めていたら怖い顔をした警官が私の方にやって来て、シッシと追い払うような仕草をしました。

そしてこの国では相変わらず事故を見かけません。カンボジアの人々は運動神経がいいのか。野生の勘が鋭いのか。集中力があるのか。はたまた単に運がいいだけなのか!? 私にはわかりませんが、日本の方がよっぽどあちこちで事故っている気がします。アメリカやヨーロッパも同じです。

先進国と呼ばれる国々は信号とか交通ルールとかキチンとしすぎて、住人たちは野生の勘を失ってしまったのでしょうか。いつもぼーっとハンドルを握っているのでしょうか。目の前の信号しか信じるものはないのでしょうか。急に横から飛び出てきたらぶつかるしかないのでしょうか……!?

トラック傾いているし! ひゃー!! こんなクルマを見かけたらスグによける私です……。
かといっていろんな国の事情があり、カンボジアのドライバーががえらい、先進諸国のドライバーが鈍くさい、などと私は決して思いませんが。運転するには、ルールがきちんとしていた方がそりゃ安心だし、ドライブレコーダーがあった方がまんいちのときの善悪がはっきりするし。言った言わないとか、泣き寝入りとか、いやですしね。

余談ですが、裁判や訴訟が日常的なアメリカ人は、ルールがあまりに曖昧な東南アジアに耐えられないのか、旅している姿はあまり見かけませんね。逆にヨーロッパのヒトが多い印象です。

それはともかくカンボジアの道路事情。生まれたばかりの首が据わっていないような赤ん坊も含めて、家族全員を乗せたスクーターをよく見ます。そういう家族が通りを疾走している姿を「エネルギッシュ」と思うのか、それとも「命が軽い」と驚くのか。同様に、ナビに頼らず小径を猛スピードでガンガン駆け抜けるドライバーを「野趣あふれる」と思うのか、「誰か飛び出してきたらどうするんだ。野蛮!」と思うのか……。

いろんなとらえ方があると思います。あくまでも私の意見ですけれど、カンボジアの道路はいまの日本よりも「楽しそう!」ですけどね。

この間、長男の卒園式が世田谷であり、慣れないヒールを履いていたらあっという間に靴擦れ……。ああトゥクトゥク呼びたい。プノンペンだったら3分以内で来てくれるのに!
私が免許を取ったのは21年前のこと。過ぎ去る年月の早さにゾッとしますが(笑)、そのころの日本の道路事情は少々やんちゃでした。いまはまったく見かけなくなりましたが、当時は交差点の手前には「二段停止線」と言って、二輪と四輪の停止線を数メートル離して設置していました。とくに片側3車線以上あるような主要な道路とか。

先頭にある二輪の停止線で信号待ちをしていると、後方からすり抜けてきたたくさんのバイクたちが、わらわらと集まってきます。青に変わった瞬間、一斉に飛び出せ追い越せ! ものすごい白煙と騒音で、まるでシグナル・グランプリ。そんな時代をかじってきた私としては、プノンペンの刺激的な道路事情にちょっとした懐かしさも感じてしまうのです。

現在カンボジア人の多くは生活のアシとしてオートバイに乗っています。また、彼らはもっといい暮らしがしたい、もっと便利に日々が送りたいと、どちらかと言うとオートバイよりクルマに乗りたい。いつかは憧れのアウディ! レンジローバー!! みたいな感じに思えます。

旅の最終日の夕方。私はこの原稿を書くために独立記念塔を訪れました。いろんなクルマ、オートバイ、人間模様がかいま見られてここでぼーっとしているのが楽しい。もちろん空気は悪いですけどね(笑)。
それって私の親世代(父は亡くなりましたが母は現在81歳)に似ています。私がオートバイの免許を取る際、「なんであんな不便で危ない乗り物に……」と眉をひそめた彼らの顔が忘れられません。

だからこそおそらく数年後、この国の次の世代の人たちが、「不便が楽しい!」なんて目を輝かせている姿がちょっと想像できるんです。「旅を楽しむため」とか「ダートでスリルを味わうため」とか、でっかいマシンを操る姿が。まさに私たちの世代がそうだったように。いや、もしかしたら違うかな。「時代は自動運転だよ!」と鼻で笑われるかも!?

長い不況のトンネルから抜け出せずにいる日本。そんなわれわれがはるか彼方に忘れてしまった前向きな空気がカンボジアには漂っています。

「今日よりも明日が素晴らしい」と信じて疑わないキラキラした人々の顔に、なんだか元気をもらえるようです。

次に訪れたとき、きっとプノンペンはさらににぎやかになっていることでしょう。また来ます。楽しく刺激的な1ヶ月をありがとう!

国井律子/Ritsuko Kunii
1975年8月25日東京生まれ。旅のエッセイスト。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後ラジオレポーターなどを経て二輪雑誌からエッセイストとしてデビュー。オートバイのほか旅、クルマ、サーフィン、アウトドアなど多趣味を生かしエッセイを執筆。著書に「放浪レディ」(求龍堂)、「アタシはバイクで旅に出る」(エイ出版)など多数。近著に「進化する私の旅スタイル」(産業編集センター)がある。

《国井律子》

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